3つ目の選択肢は突飛だろうか
さて、これまでニック・ボストロムの3つの選択肢のうち1つ目と2つ目を見てきたが、3つ目の選択肢は
「我々はシミュレーション世界にいる」
である。
いきなり話が飛んだと感じる人もいるかもしれない。
3つの選択肢ということは、1つ目でも2つ目でもない場合、必ず3つ目だと言っているのである。
当然、「いやいや3つのどれにも当てはまらない場合だってあるだろう」と思う人もいる。
「3つのどれにも当てはまらない場合」というのは、「我々人間とは関係のない生命体が、勝手にシミュレーションしている場合」が当てはまる。
「どこかの星で知的生命体がシミュレーション技術を開発している可能性がある、というのは受け入れるが、だからと言って我々人間には関係のないことではないか。」という主張は正しいように聞こえるし、実際そう思う人も多いだろう。
しかしこれは大きな間違いである。
「シミュレーション技術が開発された」ということを認めてしまった時点で、我々は間違いなくシミュレーション世界にいると言える。
3つ目の選択肢の根拠
理由を説明しよう。
まず、どこかで高度な文明を持った知的生命体がシミュレーション技術を開発し、実際にシミュレーション世界を作ったとする。
この高度な文明を持った知的生命体がいる世界こそ、現実世界である。
このとき、現実世界1つ、シミュレーション世界1つが存在していることになる。
では、我々がいるのはどちらの世界だろうか。
我々がいるのがシミュレーション世界だったとしても、我々はシミュレーション世界だと気づくことはできない。
なぜなら、ここで言っているシミュレーション世界は現実世界と区別がつかないように作られているから。そもそもシミュレーション世界にしか存在していないので、本当の現実世界を知らないから。
この時点で既に、我々人間がシミュレーション世界にいる可能性が50%であるというのがお分かりいただけただろうか。
もちろん現実世界にいるのかもしれないが、どちらかは分からない。確率は半々なのだ。
そしてこの話にはまだ続きがある。
高度な文明を持った知的生命体はシミュレーション世界を作ったが、それは1つだけだろうか。
シミュレーション世界を作れる技術があるのならば、複数のシミュレーション世界を作るのではないだろうか。
我々にとってのゲームの世界だと考えればいい。
プログラマーが「ゲームの世界を1つ作れた!」で終わるだろうか。
「別のゲームの世界も作ってみよう」となるだろうし、「他のプログラマーにも作り方を教えよう」ともなるだろうし、「作ったゲーム世界をたくさんコピーして遊んでもらおう」ともなるはずだ。
つまり、シミュレーション世界を1つ作れるのなら、何万、何億、何兆、、、と数え切れない数のシミュレーション世界を作っているはずなのだ。
仮に1万個のシミュレーション世界を作ったとしよう。
現実世界が1つしかないのに対して、シミュレーション世界は1万個もある。
このとき我々人間が本当の現実世界にいる確率は、10001分の1。
ほぼ間違いなくシミュレーション世界の中にいるのである。
さらにこの話は続く。
先ほど1万個のシミュレーション世界ができたが、そのそれぞれの世界の中では何が起こるだろう。
現実世界においてシミュレーション技術が開発されているということは、シミュレーション世界を作るための方法や設備が知られているということであり、それはシミュレーション世界の中でも再現可能なはずである。
ということは、シミュレーション世界の中でシミュレーション世界を作ることもできる。
つまり、1万個のシミュレーション世界のなかでそれぞれが1万個のシミュレーション世界を作り、さらにそのそれぞれが1万個のシミュレーション世界を作り・・・
が可能なのだ。
そう考えたとき、現実世界1つに対してシミュレーション世界は1万×1万×1万×・・・個となり、我々が現実世界にいる確率は0.0000000000・・・%となる。
したがって、ニック・ボストロムの選択肢(1)(2)を否定した瞬間、つまりどこかで誰かがシミュレーション世界を作ることができると認めた瞬間、我々は確実にシミュレーション世界の中にいるということを認めることになるのだ。